2022.04.27

食べる

【東京100年農家インタビュー・前編】4代目が情熱を注ぐ直売所で完売必至の“立川印いちご”とは?

東京都立川市で100年続く農家に生まれ、4代目として農業に取り組む金子倫康さん。8年ほど前に、立川市では初となるいちご栽培に取り組みました。金子さんが農産物直売所に出荷する朝採れの完熟いちごは、完売必至。いちご栽培で東京の農業を盛り上げる金子さんに、立川産いちごへの想い、いちご栽培を始めたきっかけ、昔ながらの栽培方法へのこだわりを伺いました。前後編でお届けします。

【東京100年農家インタビュー・後編】立川初のいちご栽培、トップランナーが描く地域農業の未来とは?

大地の恵みがギュッと詰まった立川産いちご



東京都立川市は、都内でも有数の農業生産地。繁華街から少し離れた住宅地のなかに、大きな畑や果樹園が点在しています。



甘い香りが広がるビニールハウスで、いちごの収穫をする金子さん。

「立川市では、うちを含めて4軒がいちご栽培をしています。玉川上水が流れ、自然が残る立川は、もともと土壌がよくて、農作物がよく育つ土地です。東京産のいちご⁉と珍しがられることもありますが、東京でもおいしいいちごはつくれます」(金子さん)。



金子さんは、土耕栽培(どこうさいばい)でいちごを育てています。

土耕栽培とは、昔から行われている土に植える栽培方法のこと。今では土耕栽培よりも、作業効率のよさや、収量を増やすために、地面から1m以上の高さに棚を組み、土を使わない高設栽培(こうせつさいばい)を導入するいちご農家が増えています。



「高設栽培は、腰をかがめて作業する必要がないので、足腰に負担がありません。また、土に触れないので、いちごも病気になりにくい。でも僕がつくりたいのは、大地の恵みを吸い上げたギュッと濃い味のいちごです。だから手間がかかるのは仕方ないですね(笑)」(金子さん)



完熟直前で収穫したいちごは、トロ~リとした桃のような甘さ。驚きの味わいです!

人がやっていないことに価値がある!立川初のいちご農家



金子さんがいちご栽培を始めたのは8年前のこと。母校である農業高校の実習助手を辞め、25歳で就農しました。

金子家は、立川市で100年以上続く農家。3代目の父・波留之さんの元で野菜栽培を手伝いはじめます。仕事に慣れたころに、新設したハウス2棟の管理を任された金子さん。そこで、いちごをつくろうと思い立ちます。



「当時、立川市内では出荷用いちごは誰もつくっていませんでした。だったらやってみる価値があるな、と。うちはトマトを中心に栽培しています。春~秋に実る鮮やかなトマトを見ていると、冬の寒い時期にも赤いものをつくりたくなった。赤いものって見ているだけで元気になるでしょう」(金子さん)



初めて尽くしであったけれどもチャレンジ精神を糧に、土づくりや苗の育成方法、肥料について猛勉強。試行錯誤しながら、おいしいいちごづくりに励んできました。ただ収穫量は年々増えているものの、栽培は一筋縄ではいかないそう。

「いちごは、ほかの農作物に比べると、寒さも暑さも苦手で、病害虫にも弱い。ちょっとしたことが収穫に大きく響く、本当に繊細な農作物です。いちごって“姫”や“乙女”の名前が多いでしょ。お姫様のように大切にお世話をしています」(金子さん)

7月から始まるいちご栽培、ビーフライの導入も!



金子さんの1年のいちご栽培は、7~8月の苗づくりから始まります。9月に畑へと植え替え、不要な芽や葉を取りながら、大きな花がつくように育てていきます。11~12月に真っ白な花が咲くと、受粉のためにハウスにミツバチを放ちます。



ミツバチは購入したものを使いますが、ここ数年はミツバチ不足によって、価格が上がっているそう。そこで、金子さんが代わりに取り入れたのは、なんとハエ!

「農業用に衛生的に管理されたビーフライ(受粉用のハエ)を、実験的に使っています。自分で繭から孵化させているのでハエとはいえ、ちょっとかわいく見えてきて(笑)。今のところミツバチとの差は感じません」(金子さん)



花が受粉すると30~40日ほどで出荷できるいちごに成長。初出荷は大体12月中旬ごろ、そこから5月末ごろまで出荷が続きます。出荷するいちごには、立川市の農業ブランド「立川印」のシールを貼っているそう。



「いちごは、その名のように1~5月まで楽しめます。旬の盛りは2月中旬~4月まで。出始めは大粒な一番果が多いですし、終盤になるにつれ中小粒な二番果、三番果が増えてきます。でも熟していれば、どれもおいしいです。永く味わえるのも、いちごのいいところですね」(金子さん)

後編は、いちご農家の1日や、普及に力を入れる江戸東京野菜についてです。お楽しみに。

金子園

金子倫康(かねこ・ともやす)さん

母校である農業高校の実習助手などを経て就農。3代目の父・波留之さんと共にトマト、いちご、野菜全般(年間約30種類)を栽培している。自らが始めた土耕栽培のいちごに力を入れていて、本格的な出荷シーズンの1~5月はいちごにかかりっきり。“味が濃くておいしい”とファンが多い金子さんのいちごは、地元のみならずいちご王国・栃木県のお客さんから注文が入ることも。JA東京みどりの農産物直売所「みのーれ立川」などで販売中。

写真/津田雅人 取材協力/JA東京みどり

Pick up

Related

Ranking