2022.07.22

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【農業女子インタビュー】レタス農家に嫁いだものの喪失感の日々。そんな彼女が見つけた“自分らしさ”とは…

農業未経験でレタスの大産地・長野県川上村に嫁ぎ、家族で広大なレタス畑を切り盛りする新海智子さん。笑顔輝く2児のママでもありますが、嫁いだ当初は自分の存在意義を見失い、泣いてばかりいたそう…。それが今では農業女子を繋げるイベントやオンラインサロンを主催するなど大活躍! 精力的に活動する新海さんに、詳しく話を聞きました。

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結婚を機に就農したけれど…涙にくれた新婚時代

かつて都会で仕事をしていた新海さん。結婚を機に就農したそうですが、農家になるとは微塵も思っていなかったと言います。



「夫は川上村のレタス農家の息子ですが、次男だったので継ぐことはないだろうと、就農については何も考えずに交際していました。そうしたら、彼が突然実家に帰って農業を継ぐと言い出したんです」(新海さん)

結婚を考えてはいましたが、心の準備は何もできていなかった新海さん。一緒に行くという決断はすぐにはできず、遠距離恋愛で交際を続けることに。2年が過ぎたころ、ついに嫁ぐ決心をします。

「彼以上の人には出会えないと思ったんです。大変なこともあるけど、考えてばかりいても仕方がないから、行ってしまえー! と思い切って川上村に向かいました」(新海さん)



ところが、ここから新海さんは自分を見失い、辛い日々を過ごすことに…。

「農家になるつもりでキャリアを積み重ねていたわけではなかったので、これまで自分がやってきたことは何だったんだろうって…。すべてが無になってしまったような気持ちでした」(新海さん)

そんな新海さんを夫も義父母も、そっと見守ってくれ、第一子となる女の子にも恵まれました。それでも新海さんの気持ちは晴れず、娘さんが1歳になるころまでは泣いてばかりだったといいます。



「でも、ある日ハッと気がついたんです。わたしはこんな姿を子どもに見せたいの?そうじゃない!って」(新海さん)

この気づきから心理学の勉強に取り組むことを決めた新海さんは、帰省も兼ねて東京での講座に通い始めました。そうするうちに、考え方やモノの見方が大きく変わっていったそうです。

「人のせいにしていては何も変わらないけれど、自分で自分を変えることはできると思うようになり、何事も前向きになりました」(新海さん)

自分らしさを発揮できる場を作りたい!



川上村には、結婚を機に移住し農業に携わる女性が多くいます。でも、交流する場が限られていて、みんな等しく“農家のお嫁さん”をしている…新海さんはそれぞれが自分らしく輝ける場所を作りたい、と思うようになりました。

「“○○のお嫁さん”、子供が生まれると“○○ちゃんのママ”といった形で、地域ではどうしても家単位での認識になります。でも結婚する前は飲食店の店長だったりデザイナーだったり、みんなそれぞれ違った生き方があって」(新海さん)

同じ“農家の嫁”でもそれぞれやってきたことがあり、得意なことがある。一個人として自分自身を表現できる場の必要性を感じた新海さんは、川上村で焼き菓子や手芸など、それぞれが得意とするものを販売できるマルシェを開くことを決意します!



マルシェは、名づけて「Kawakami Girls Collection(カワカミ・ガールズ・コレクション)」。2016年から2017年にかけて、3回開催されました。

 「最初は不安もありましたが、出店した人達から大好評で。誰もが力を発揮したいし、個人として認められたい、本音でしゃべりたいと思っているんですよね。そんな場を作れたことがうれしくて。たくさんの“農業女子”と出会えたこともすごく幸せでした」(新海さん)



このマルシェの様子を知った長野県から声がかかり、長野県農業女子のコアメンバーも務めた新海さん。現在は、農林水産省の農業女子プロジェクトメンバーの一員です。

すべての女性が自分らしく生きられるように

活動の幅は広がりましたが、「目指すところは変わらない」と新海さん。自分自身が当事者であることから、やはり関心は“農業女子”に向きます。

「農業女子が自分らしく生きられるように、少人数制のオンラインサロン(※1)をスタートさせ、現在3期目です。オンラインだと地方にいても学ぶことが出来るし、地域では言いにくいことも本音で語れます。わたしにとっての学びもたくさんあるんです」(新海さん)

 

農業に携わる“農業女子”が全国から集まり、学び合い、語り合える場となっているオンラインサロン。何度も参加するリピーターも多いそう。

「この先、農業を通して自分を見つめ直す“畑リトリート(※2)”のようなこともやってみたいんです。これなら、農業をしていない女性でも参加できますよね」(新海さん)



自分を見失いかけていたときに1歳だった娘さんは、今では中学生。「ママは、いつも楽しそうで、かっこいい。憧れの人」と言ってくれたと、うれしそうに話してくれた新海さんは、“農業を軸に女性が幸せになる活動”を目指したいと目を輝かせます。

最後に、『あたらしい日日』読者に向けて何かメッセージをと聞くと、こんなコメントが返ってきました。



「周りを変えようとするより自分が変わったほうが絶対に早い。そのためにも、1人でもいいから語り合える仲間を見つけることが大切です。1歩ずつ確実に進めば、道は開けていきます。ひとつの方法に固執せず、状況に合わせてフレキシブルに対応することも大事かなって、経験から思います」(新海さん)

自分の人生は自分の手で変えていける。そのことを体現してきた新海さんの言葉には重みがあり、希望を感じます! 新海さんのこれからの活動に注目です。

※1 インターネットで展開される会員制のコミュニティやその交流の場
※2 日常から離れた場所に何日か身を置き、心身をリセットすること



新海農園

新海智子さん

2006年、結婚を機に一大レタス産地、長野県の川上村へ移住。農業経験のない状態から、夫が継いだ農業に共に従事する。現在は、5ha(ヘクタール)の畑を管理しながら、メインのレタスのほか、ハクサイなどの葉物を中心に栽培している。女性農業者が自ら幸せを創造できるようにと、KURASHI FIT PROJECT(暮らしフィットプロジェクト)を主宰して講師も務めるほか、農林水産省農業女子PJメンバー、長野県食と農業農村振興審議会佐久地区部会委員など多方面で活躍中。

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写真提供/新海智子 取材協力/JA長野八ヶ岳

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