最近はスーパーやコンビニで一年中焼き芋が売っていますよね。見かけるとつい手が伸びちゃいますが、さつまいもの旬は秋冬のはず。なのに、いつでも焼き芋が買えるのはどうして?じつは…茨城県に焼き芋専用のさつまいもを通年出荷している産地があるんです!さっそく現地を訪ねてきました!
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焼き芋用のさつまいもって何が違うの?
向かったのは茨城県行方市。実は茨城県はさつまいもの栽培面積・生産量ともに全国2位を誇ります。
一面に広がるさつまいも畑。これだけ広いとたくさんのさつまいもが収穫できそうです!
「さつまいもは年に一度、秋にしか収穫できません。一年分のさつまいもを収穫するから、収穫時期は本当に大忙しなんですよ」と気さくに話すのは、この道40年のベテランさつまいも農家の髙木正雄さん。
収穫したてのさつまいもを持つ髙木さん。どれも立派でおいしそう!
行方市のさつまいも農家は焼き芋専用にさつまいもを生産し、出荷しています。焼き芋専用ってことはほかのさつまいもと何か違うんでしょうか?
「焼き芋専用のさつまいもはすぐには出荷せず、しばらく寝かします。そうすることで甘みが引き立つんですよ。聞くよりも見た方が早いと思うので、ちょっと行ってみますか」(髙木さん)
髙木さんに連れられて到着したのは大きな倉庫。中にはケースでさつまいもが品種ごとに分けられ、きれいに置かれています。
「さつまいもは収穫してすぐに貯蔵庫と呼ばれる大きな倉庫で貯蔵して、熟成させます。一定の温度と湿度で保存すると糖度が増して焼き芋に最適なさつまいもになるんです」(髙木さん)
貯蔵庫はどこも湿度が90%に保たれているのでまるでミストサウナのよう!
「通常のさつまいもは収穫時の傷を保護するため数日だけ貯蔵庫に入れますが、焼き芋専用のさつまいもは収穫して出荷までずっと貯蔵庫の中。しっかりと甘さを引き出して、焼き芋にしたときに一番おいしくなる状態にしてを出荷するんですよ」(髙木さん)
焼き芋専用に品種をセレクト!ベストな状態のさつまいもだけ出荷します
焼き芋にしたときに最高の味になるようにと、育てている品種も焼き芋向きなものを選んでいます。行方では紅優甘(べにゆうか)、紅まさり、紅こがねの3種類を育てているそう。なぜこの3種類なんでしょうか?
「さつまいもの貯蔵期間が関係しています」と髙木さん。
秋にさつまいもを収穫して貯蔵しますが、焼き芋に最適な貯蔵期間は品種ごとに違うのだそう。
「収穫したてでもしっかり甘い紅優甘をまず出荷して、次に収穫から1〜2か月貯蔵が必要な紅まさりを、最後に一番長い貯蔵期間が必要な紅こがねを出荷します。つまり、みなさんが食べている焼き芋は夏の終わりから秋にかけてが紅優甘、冬は紅まさり、春から夏の初めは紅こがね、というわけです」(髙木さん)
いつ買ってもおいしいわけは、時期によって食べている品種が違ったからなんですね!
こんなにも焼き芋ファーストで栽培しているなんて、驚きと感動で胸いっぱいです。
焼き芋専用さつまいもの産地になるまで
以前はタバコの産地だったという行方市。そもそもどうして焼き芋専用のさつまいもを栽培し始めたのでしょうか。
「もともとこの地域ではタバコの葉とさつまいもを育てていたんですが、タバコの葉のニーズはだんだんと少なくなってね…じゃあさつまいも一本でやっていこう、と切り替えたんです」(髙木さん)
けれどさつまいもは全国各地で生産しているため、行方産のさつまいもの消費が特別に伸びることはありませんでした。このままではいけない、そう思った行方のさつまいも農家は、生産するさつまいもをあるもの専用に売り出すことを決めます。
「それが焼き芋です。『焼き芋専用のさつまいも産地』ならどこもやっていないから産地競争にもならないし、なにより焼き芋っておいしいから、いける気がしてね」と髙木さん。
しかし、いくらおいしくても、焼き芋を毎日いつでも手に入る状態にしないと消費は伸びません。
ここでひらめいたのが、JAなめがたしおさいの職員・金田富夫さんです。
「スーパーで焼きたての焼き芋をすぐに買えたらいいんじゃないか、そう思って焼き芋機メーカーと組んで、焼き芋機と焼き芋専用のさつまいもをセットにしてスーパーなどに売り込んだんです」(金田さん)
なんと金田さん、スーパーやコンビニで見かける焼き芋店頭販売の仕掛人でした!
「焼き芋が手軽に買えるようになったら、絶対に売れると思ったんです。だって焼き芋ってそれくらいおいしいじゃないですか」と金田さんは話します。
「いつでも焼き芋が食べられるように、俺らはおいしいさつまいもを作るから、金田さんはしっかり売ってきてくれ、って見送ったのを今でも思い出すよ」と髙木さんも頷きます。
畑で今年のさつまいもの出来について話す髙木さんと金田さん。信頼関係バツグンです!
産地一丸となって取り組んだ焼き芋販売は見事的中。焼き芋ブームが生まれました。
スーパーやコンビニなど、いつでもすぐに買えるようになった焼き芋の裏には、こんなにアツい物語があったなんて…。
焼き芋の挑戦はまだまだ続く…!
「せっかくだから食べてみてよ!」と髙木さんから熱々の焼き芋を手渡されました!漂う甘~い香りにお腹が鳴りまくり!さっそく、いただきまーす!
食べてみると、口いっぱいに広がるスイーツのような甘さとしっとり感は「本当に焼き芋!?」と驚くほど。これが行方産のさつまいもの実力…!一目惚れならぬ、ひとくち惚れを体験しました!
「焼き芋をもっと食べてほしいから、新商品も考えました。それが『冷凍焼き芋』です!」(金田さん)
「冷凍焼き芋は、保存がきくし、レンジ加熱ですぐ食べられるから人気ですね。解凍して冷たいまま食べても濃厚なアイスみたいでイケますよ」(髙木さん)
製造工場を探しに、JAの金田さんが北海道まで出向いたこだわりの逸品です。
冷凍焼き芋はひんやりスイーツみたいで、また違ったおいしさ!
近年はカナダやフランスでも焼き芋が人気で、さつまいもを出荷しているとか。
いつ食べても最高においしい焼き芋には、産地の焼き芋愛がたっぷり詰まっていました!
髙木雅雄さん
妻の裕子さんとともに行方市で農業を営んで40年余り。約9ヘクタールの畑で31万株のさつまいもを栽培している。所属するJAなめがたしおさい甘藷部会は、スーパーなどでの焼き芋販売に活路を見出した「焼き芋戦略」で行方市のさつまいもの全国販売に成功。一定の温度・湿度で管理して、熟成させたさつまいもは焼き芋に最適で、しっとりした口当たりと優しい甘みで人気を集めている。2007年にオープンした体験型農業テーマパーク「なめがたファーマーズヴィレッジ」内で提供されている料理でも、行方産のさつまいもを味わうことができる。冷凍焼き芋の購入はこちらから。
JAなめがたしおさい 甘藷部会連絡会
住所:茨城県行方市島並857-35
電話:0299-72-1880
HP:https://ja-ns.or.jp/
写真/加藤優里 取材協力/JAなめがたしおさい
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