2022.03.13

働く

【生産者インタビュー!東京都葛飾区発】祖父から受け継いだ幻の野菜「新宿ねぎ」を育てる農業男子に密着!

東京都葛飾区新宿(にいじゅく)地区で古くから栽培されてきた「新宿(にいじゅく)ねぎ」。甘みが強く長ねぎ本来の風味が味わえると、つい50年ほど前までは盛んに作られていましたが、相続等による都市農地の減少により、現在はわずか3軒の農家しか作っていないという、超希少な長ねぎです。そんな幻の長ねぎを、栽培農家の中でも唯一自家採種、栽培しているのが、若き農家の田中重孝さん。祖父から受け継いだ貴重な種を、未来へ残そうとする田中さんの奮闘に迫ります!

【画像を見る】祖父の遺志を継ぎ「新宿ねぎ」を栽培する、田中さんのアツイ想いとは…



「新宿ねぎ」とはかつて長ねぎの大産地だった新宿地区で育てられてきた長ねぎの総称。かつては長ねぎ畑が広がっていたというこの地で、当時の「新宿ねぎ」を育てている栽培農家は、現在たった3軒だけ。

その中でも、祖父の代から自家採種(栽培した野菜から種を採り、採った種で次の野菜を栽培すること )している種を育てている農家が、田中農園の田中重孝さんです。

祖父が遺した「新宿ねぎ」



30~40年ほど前までは見かけることもあったという新宿ねぎ。多くの農家が栽培を止める中、田中さんは就農してから11年間、毎年欠かさず新宿ねぎを栽培しています。

「新宿ねぎを育てているのは、亡くなった祖父の影響が大きいですね」(田中さん)



田中農園では新宿ねぎだけでなく、枝豆やさつまいもなど様々な野菜を育てていますが、かつては新宿ねぎを中心に育てるねぎ農家でした。

「祖父が若いころはねぎ農家だったので、思い入れが強くて。病気で亡くなる直前まで、新宿ねぎの生長を確認していた姿が目に焼き付いています。父が早くに亡くなってしまった僕にとって、祖父はとても大切な存在。そんな祖父が命を懸けて育ててきた新宿ねぎを、未来へつないでいきたい、就農する時にそう決意したんです」(田中さん)



しかし、近隣のベテラン農家も都市化と後継者不足等により続々と離農。栽培農家はあっという間に減少してしまいました。

「自家採種した種は品種改良されている最新の品種と違って、耐病性もなく、寒さに弱いので育てるのが難しくて。祖父の作業1つ1つを細かく写真で記録したものなどを頼りに、なんとか栽培を続けています。」(田中さん)


祖父の重夫さん。今も重夫さんの作業写真がいろいろな場面で役に立っているそうです。

栽培し続けるというプレッシャーも

毎年3~4月に種まきをして、冬に収穫するまで時間と手間をかけて大切に育てられる新宿ねぎ。
種まきの時期や必要な作業は一般的な長ねぎと変わりませんが、毎年必ず栽培する必要があるそうです。


田中さんが育てた新宿ねぎ。同じ東京の伝統野菜「千住ねぎ」の仲間です。

「一般的にねぎの種の寿命は1年ほど、と言われていますが、新宿ねぎの種も同じ。そのため、作るのを1年でも止めてしまえば、そこで新宿ねぎの栽培は途絶えてしまいます。また、上質な新宿ねぎを育てなければ、種を採種したとしても芽が出ず、育てられません。毎年失敗せずに育てなければならないというプレッシャーは…けっこうありますね。種まき後はちゃんと芽が出るのか、今でもドキドキします」(田中さん)


田中さんが採種した新宿ねぎの種

祖父から受け継いだ貴重な野菜を育てるという責任の重さを感じ、必要な量の倍以上の種を採種するなど、もしもの事態への備えも欠かしません。

「天候に恵まれなかった年は、種を残すためだけに新宿ねぎを育てる方向に切り替えるなど、状況に合わせた判断が求められる毎日です」(田中さん)



安定した生産を目指して

貴重な新宿ねぎは、加熱すると、甘みも引き立ち最高の味わいに。



加熱料理の中でも田中家でよく食べていると言うのがチーズフォンデュ。濃厚な甘さの新宿ねぎにとろ~りチーズのバランスが最高です。

一度は食べてみたい新宿ねぎですが、どこで手に入るのでしょうか?

「実は…新宿ねぎ自体があまり知られていないため、一般的な長ねぎと分けずに出荷しているんです」と、田中さん。

近隣の直売所に出荷するときは、「新宿ねぎ」ではなく「泥ねぎ」として出荷し、他の長ねぎと値段の差もつけていないのだそう!



「残念ながらブランドで買っていただけるほど浸透していないので(涙)。『新宿ねぎがほしい!』と名指しで購入してもらえる日が来るように、まずは安定的な生産を目指します」(田中さん)

田中さんは、よりよい栽培方法を探ろうと、JA東京スマイルや種苗会社と相談し、種の保存や採種についても研究しています。



「かつては新宿地区には新宿ねぎ畑が広がっていました。そんな風景をもう一度見たくて。今は出荷のため他の長ねぎ品種も栽培していますが、ゆくゆくは新宿ねぎだけを育てていきたいです」(田中さん)

田中さんの挑戦はこれからも続きます。

田中農園

田中重孝さん

東京都葛飾区新宿地区で代々農業を営む田中農園。古くから栽培されている「新宿(にいじゅく)ねぎ」をはじめ、年間約30品目を栽培。サステナブルな農業を目指し、生産する野菜は「東京都エコ農産物認証制度」「東京都GAP」を取得。葛飾元気野菜直売所やJA東京アグリパークに出荷するとともに、自宅の庭先にある「田中直売所」でも安全・安心な地元野菜を販売している。

住所:東京都葛飾区高砂7-21-16
電話:03-3600-8384

取材写真/研壁秀俊 料理写真/石塚修平 取材協力/JA東京スマイル

Pick up

Related

Ranking