2021.12.26

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【Uターン体験談】ミュージシャン&デザイナー夫妻が一大決心!【種苗店経営者】に。波乱の人生ドラマに密着!

「種苗店」と聞いてピンとこない方も多いかもしれませんが、種苗という字のごとく、野菜などの種や苗を販売するお店のこと。経営するには農業全般の幅広い知識が求められます。ある日、東京都あきる野市で、種苗店経営を任されることになった元ミュージシャン&元デザイナー夫妻。もちろん、農業未経験! 二人三脚のUターン就職はうまくいくのでしょうか…!

【画像を見る】種苗店経営者「波乱の人生ドラマ」



秋川渓谷や城山など、癒やしスポットが点在するあきる野市。豊かな自然に囲まれた住宅街の中に見えてきたのは、種苗店「野村植産」!


幸子さんのデザインしたオシャレな店頭幕が目印です!

もともとは幸子さんのお父さんが種苗メーカーに勤めていた経験を生かして立ち上げた野村植産。野村さん夫妻は二代目店主として、2012年に店の経営を引き継ぎました。

 

店内に入ると目を引くのが、豊富なラインナップの種! ジャケ買いもアリなのでは…と思うほど、1つの野菜だけでもとにかくたくさんの種が販売されています。

異業種を経て種苗店店主になった夫妻の歩みとは…



「この品種の特徴は~」「この野菜のおすすめの食べ方は~」と、ひとつひとつ丁重に説明する姿に、さすが種のプロフェッショナル! と感動していると、「実は最初から種や農業に興味があったわけじゃないんですよ~」と幸子さんから驚きの一言が。

「東京都内ではありますが、あきる野市は山も近いし自然豊か。ありがちなんですけど、若い頃は『田舎はイヤ!都会に行こう!』と思っていて(笑)。実家の種苗店を含め、農業に興味はありませんでした。地元を出て美大に進学し、デザイナーをしていたんです」(幸子さん)



野村植産で管理する畑を眺めながら、「でも、結局住み着いたのは都心までけっこう距離のある吉祥寺。都会のど真ん中には、なぜか住めませんでした。自然が多いところで育ったせいでしょうかね」と幸子さん。



デザイナーとして多忙な毎日を送る中で、都会の生活もやりきったかな、という気持ちが生まれてきたそうです。

「帰省するたびに、なぜだか父の畑へ足を運ぶ自分がいて。野菜の種を植えて実るまでを眺めていたら『農業もデザインと同じでクリエイティブ』だと感じるようになりました。そして、その野菜のもとになる種や苗を売っている種苗店ってすごい面白いんじゃない!?と気がついたんです」(幸子さん)

一方、「当時付き合っていた妻から家業を継ぎたい、と提案された時は『種苗店って何?』のレベルでした(笑)」と話す辰也さん。



「当時、僕はプロのミュージシャンを目指しながら、音響の仕事をしていました。スタジオで機材のメンテナンスをしたり、音楽イベントに参加したりして。音響の仕事と並行して、飲食店の店長をしていた時期もあります。働き方を模索していたときに妻の話を聞いて、種苗店ってたしかにおもしろそうだなと思ったんです。それに、店という自分の拠点を持って仕事をするのもよさそうだと」(辰也さん)

「当時ふたりとも20代後半。夢を目指して行動し、自分なりに納得したからこそ、できた選択だったのかもしれません」(幸子さん)



家業を継ぐ、ということで不安などはなかったのでしょうか?

「種苗店経営は農業の知識が必要な仕事ですが、僕も妻も何も経験がなかったのでも不安がありましたし、店を継ぐということで緊張もしていました。そんなとき『店はタバコ屋みたいなもんで、すごく儲からないけどすごく損もしない、楽しくやってくれたら大丈夫』とお義父さんが言ってくれたんです。肩の力が抜けましたね」(辰也さん)

「ものづくりの楽しさ」を農業に見出した幸子さんと、先代の優しい言葉にお店を継ぐ決意をした辰也さん。まもなくふたりは野村植産二代目店主となりました。

種苗店の役割はひとつじゃない

お店を引き継いだものの、辰也さんも幸子さんも未経験からのスタート。最初は接客ひとつにしても戸惑いがあったとか。



「お客さんから栽培について相談されるたびに本を読んで勉強した情報を伝えたんですが、なんだかしっくりこなくて…。よく考えてみたらお客さんはベテラン農家で、本に載ってる情報なんて当然知っていたんです」(辰也さん)

悩みながら接客する毎日で、地域の種苗店の役割に気がついたと言います。



「農作物の栽培は絶対にうまくいく方法はなくて、その年の天候などに合わせることが求められます。『今年の天候だとあれが良さそう』や『こうしたらダメだった』など、お客さんと話す内容は、地域の栽培についての価値のある情報。種苗店は、種や苗を売るだけじゃなくて、地域の農業情報を共有する役割もあると気がつきました」(幸子さん)

それからは店頭で得た情報を、訪れたお客さんにシェアするようになったそうです。まるで、農作業の回覧板みたい!



「種まきの時期にしても、パッケージどおりではない、この土地ならではのベストな時期がある。種苗店を続けていくうちに『地域に根ざした店のおもしろさ』が分かり始めました」(辰也さん)

前職の経験を活かしながら種苗店としてさらなる活動も!

種苗店を営みながら、野村さんご夫妻の活動は広がります。

「種苗会社の方が提案がてらおすすめの種を持ってきてくれます。それを試験的に育てるうちに、珍しい野菜、特に日本ではまだ馴染みがない西洋野菜の魅力にハマって。東京西洋野菜研究会というグループを立ち上げ、マルシェを開催したりレシピを紹介したり、西洋野菜の魅力を発信しています」(幸子さん)


幸子さんがデザインした東京西洋野菜研究会のオリジナルレシピ集

東京西洋野菜研究会が発行したレシピ集のデザインを幸子さんが担当、マルシェのイベントは辰也さんが企画するなど、前職の経験も活かしながら、活動の幅はぐんぐん広がっています。

種を扱う専門家として、地域との交流も欠かしません。



「うちの畑を近隣の保育園に開放し、種まきや収穫をしてもらっています。『子どもが食べられなかった野菜を食べられるようになった』なんて声を聞くと嬉しいですね」(辰也さん)

「近所の小学校で出前授業をしたこともありました。育てやすい野菜を紹介したり、栽培について質問に答えたりして。小学生から種について電話で相談されることも」(幸子さん)



既存の店舗事業もさらに充実させたい、と幸子さんは続けます。

「『変わった種が買えるおもしろいたね屋さん』と思ってもらえるように、さらに知識をつけて紹介できたらと思っています」

農業とは異なる経験を活かし、挑戦を続ける野村さん夫妻のこれからの活動に注目です!

野村植産のホームページはこちら
野村さん夫妻が参加するマルシェの情報はこちら
東京西洋野菜研究会のホームページはこちら


野村植産㈱

野村辰也さん・幸子さん

東京都あきる野市、JR秋川駅から徒歩10分の住宅街にある種苗店。バラエティに富んだ品揃え、きめ細やかな対応から、家庭菜園を楽しむ地域住民や農家からの信頼は厚い。西洋野菜を育てたことをきっかけに、2018年「東京西洋野菜研究会」を発足。マルシェやワークショップなど、西洋野菜の魅力を広く伝える活動を続けている。出前授業や栽培指導などを通して、地域の保育園や小学校の食育サポートにも注力。広い世代に向けて「土に触れ、食べるよろこび」を発信している。
ホームページは
https://nomuraseed.mystrikingly.com/
東京西洋野菜研究会はこちら

写真/石塚修平 取材協力/JAあきがわ

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