転機3:畑がきた!苗がきた!ワイナリーとつながった!そんな貫井さんに、3度目の転機が訪れます。管理者のいない畑を、貫井園で引き受けてもらえないかという話が舞い込んだのです。
「だったら、ぶどう畑にしたい」と動き始めた貫井さん。ところが、ワイン用のぶどうの苗が入手できないという事態に直面します。
「世界では、ぶどうの栽培と言えば、実はワイン用が主流。でも日本の場合、フルーツとして食べるぶどうがメインで、ワイン用ぶどうの苗木はそもそもの流通量が少ないんです。それなのに最近は、日本でワインを造る人も増えてきて、なかなか苗木が手に入りませんでした」(貫井さん)
それでもあきらめない貫井さん、会う人会う人に「苗木が手に入らない」と言い続けていたら、なんと知人を通して30本の苗木を譲ってもらえることに!まるで神さまが導いてくれたような出来事は、2016年のことでした。
夢を実現:はじめての収穫と醸造こうして、家業と並行して、ワイン用ぶどうの栽培にも携わることとなった貫井さん。
「父も気にかけてくれますが、基本的にわたし一人で管理しています。知り合いにぶどう農家もいないし、栽培はほぼ独学です」(貫井さん)
ぶどう栽培は、とても手間がかかるといいます。「薬剤の散布、雨風や鳥から実を守るための傘がけ、ネット張りなど、タイミングを逃さないように細かい作業が続くんです。それでも虫や鳥に食べられてしまうこともあるし、鹿も来るし(苦笑)」(貫井さん)失敗したり不安を感じたりの日々でしたが、2018年、ついに初めてのワイン用ぶどうを収穫します。
黒ぶどうの『ピノ・ノワール』白ぶどうの『シャルドネ』「30kgほどでしたから、ワイナリーで仕込むような量ではないんです。でも、とにかくうれしくて、お付き合いのあるワイナリーに持ち込みました!」(貫井さん)
30kgではワイナリーの機材が使えず、手作業での醸造。それでも、20本前後のワインが出来上がりました。
「貫井園のぶどう100%で造ったスパークリングワインです。最初は試作品のようなものだったので、販売はしていません。ちゃんと販売できるようになったのは、2020年に収穫したぶどうからです。この年は木の成長などに伴って収穫量も100kgほどに増え、スパークリングワインが約80本できました」(貫井さん)
黒ぶどうと白ぶどうを合わせて造ったロゼのスパークリングワインちなみに貫井さんのスパークリングワインは、ベースとなるワインに炭酸を注入して人工的に造るのではなく、酵母と糖分を追加して二次発酵させる伝統的な方式をとっているとのこと。二次発酵には、最低でも15か月以上の期間が必要だとか。
「自家製ぶどうでワインを造りたいと夢を抱き、初めて苗を植えたのが2016年。2020年に収穫したぶどうを1年半以上かけてスパークリングワインに仕上げて、2022年にようやく販売……いやあ、長かったですね(笑)」(貫井さん)