2022.04.30

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【東京100年農家インタビュー・後編】立川初のいちご栽培、トップランナーが描く地域農業の未来とは?

東京都立川市で100年続く農家に生まれ、4代目として農業に取り組む金子倫康さん。8年ほど前に、立川市では初となるいちご栽培に取り組みました。金子さんが農産物直売所に出荷する朝採れの完熟いちごは、完売必至。栽培のこだわりを紹介した前編に続き、後編では、いちご農家の1日や、普及に取り組む伝統野菜・江戸東京野菜について伺いました。

【東京100年農家インタビュー・前編】4代目が情熱を注ぐ直売所で完売必至の“立川印いちご”とは?

朝一番にいちごを収穫するにはワケがある⁉



取材した3月中旬は、まさにいちごの最盛期。出荷が忙しいこの時期は、毎朝8時ごろには作業が始まります。まずはいちごの収穫を済ませて、その後にたっぷりといちごに水やりをします。

「日差しを浴びるといちごがやわらかくなって、パック詰めする際に傷みやすくなります。だから、収穫は必ず朝一番にします」(金子さん)



その後は、すぐ出荷作業へ。1パックの容量が大体350~400gになるよう、大粒なら7粒、小粒なら10~12粒を詰めていくそう。

「パック詰めしたものを昼過ぎには直売所へ。毎日40パック程度を販売します」(金子さん)



熟した朝採れいちごは、トロ~リとした甘さ!
立川市の農業ブランド「立川印」をつけた金子さんのいちごが店頭に並ぶと、地元の人がこぞって買い求めるそうです。



午後からは、いちごの実なりがよくなるように、葉や小さな花芽を摘み取る作業をします。

「その後は、栽培しているほかの野菜を見て回り、夕方にまた、いちごにたっぷりと水やりをして終了です」(金子さん)

ご贔屓いちごは、『おいCベリー』

最近では、毎年3種類のいちごを栽培しています。今年育てている品種のなかで、金子さんが気に入っているのは、九州発祥の『おいCベリー』です。


金子さんご贔屓『おいCベリー』


大粒で酸味と甘みが絶妙な『もういっこ』



「『おいCベリー』は去年も栽培しましたが、すっかり気に入ってしまって。香りと甘みが強くてビタミンCが豊富です。一度食べてみて欲しいですね。ほかには大粒で酸味と甘みのバランスがいい『もういっこ』、甘さと形の美しさがある『やよいひめ』を育てています。どの品種も個性があって、おいしいですよ」(金子さん)

いちごの魅力は、品種が多くさまざまな味を楽しめること。複数買いするときは、品種違いで買い求めるのもいいかもしれません。



栽培から8年が経ち、収穫量は初年度に比べて1.5倍以上に増加。直売所ほどではないものの、農園前のコインロッカーを使った無人販売も好調です。玉川上水沿いにあるために、川辺を散歩する人が買っていくとか。

「20パックぐらい入れておいても、休日は昼ごろになくなっていますね。ありがたいことですね」(金子さん)

若い世代に江戸東京野菜を伝えていく



いちご以外に栽培に力を入れているのが、江戸東京野菜です。収穫量が少なく栽培に手間がかかることで、一時は消えつつあった伝統野菜。ここ数年、江戸から受け継いだ食文化を守ろうと、東京の農家で普及活動が広がっています。



「父と共に5年ほど前から『寺島ナス』と『馬込半白(まごめはんじろ)キュウリ』をつくっています。寺島ナスは小粒だけど、身がしっかり詰まっていて、素揚げにするとうまい。馬込半白キュウリは、上部が緑色で、そこから先に向けてだんだん白くなるのが特徴。ウリっぽくて漬物に向く。江戸から受け継がれてきた在来の野菜があることを若い世代に知って欲しいですね」(金子さん)



地域の先駆者として始めたいちごは、地元を中心にファンが待ちわびる存在へと成長しました。

「これからも土耕栽培の味にこだわっていちごをつくっていきたい。いちごの収穫量も増やして、多くの人にこの味を届けていきたいですね」(金子さん)



いちご栽培を始めた理由の一つに、「いちごの赤は元気をくれる」と話す金子さん。日々いちごでパワーチャージしながら、東京の農業を盛り上げていくに違いありません。

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金子園

金子倫康(かねこ・ともやす)さん

母校である農業高校の実習助手などを経て就農。3代目の父・波留之さんと共にトマト、いちご、野菜全般(年間約30種類)を栽培している。自らが始めた土耕栽培のいちごに力を入れていて、本格的な出荷シーズンの1~5月はいちごにかかりっきり。“味が濃くておいしい”とファンが多い金子さんのいちごは、地元のみならずいちご王国・栃木県のお客さんから注文が入ることも。JA東京みどりの農産物直売所「みのーれ立川」などで販売中。

写真/津田雅人 取材協力/JA東京みどり

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