2022.10.02

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【農業女子インタビュー】牛ならぬ鶏を「放牧」!? 海外勤務を経て養鶏農家になった彼女の驚きの飼育法とは…

海外で働きたい!そんな夢を追って大学卒業後フィリピンに渡った桑原花さん。少数民族の農業サポートをする仕事を自分なりにやり切り、次なる目標を探していたら…偶然にも養鶏農家になるチャンス! 即断即決で転身し、さらに日本では超レアな「鶏の放牧」を手掛けています。類まれなる行動力とバイタリティはいったいどこから? 鶏を愛し、鶏の産んだ卵を愛でる花さんに詳しく話を聞きました。

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偶然が重なり、ある日養鶏農家に!?

関東平野の西北の端にある比企丘陵に囲まれた埼玉県小川町。



山に囲まれ自然豊かなこの地に、今回の舞台、桑原さんの営むぶくぶく農園があります。



3人姉妹の長女として生まれた桑原さんは、5歳のときに両親が小川町に移住。高校卒業後に小川町を離れて九州の大学で森林学を学びます。

海外で働きたいと思っていたことから、卒業後はNGOのアシスタントとしてフィリピンへ。約1年半、現地事業の立ち上げに関わり、25歳で帰国しました。

「フィリピンでは少数民族の農業のサポートとして、有機農産物を都市部へ売り込む活動をして。やりたいことを全部やり切って帰ってきました」(桑原さん)



帰国後は、実家のぶくぶく農園を手伝っていた桑原さん。当時小規模で行っていた養鶏卵を出荷するために訪れた農産物直売所で、運命の出会いがありました。

「偶然居合わせた先輩の養鶏農家の方から『廃業するから、いらなくなった設備を譲るので見に来ない?』と声をかけられたんです。見学に行くと、その鶏小屋がとてもかっこよくて。こんなふうに育てたい!と、一目惚れして今に至ります」(桑原さん)

鶏を放牧!? アイデアは海外から

養鶏を始めて6年目、ぶくぶく農園では約700羽の鶏を、“放牧”飼育しています。

「よくある平飼いは鶏を鶏舎の中で放し飼いにします。でも放牧は、鶏を網を張った野外に放してそこに生える雑草も餌として利用するんです」(桑原さん)

国内でもかなり珍しい鶏の放牧。挑戦したきっかけは、何気なく英語で検索した鶏の飼育方法にありました。



「養鶏を始めたばかりの当時、鶏の飼育方法について英語でも夜な夜な調べていました。すると、海外では鶏を放牧している農家がいると分かって。放牧ってどういうことだろう、なんだかおもしろそう!と気になってしまったんです」(桑原さん)

鶏の放牧に興味津々の桑原さん。「今行かないと一生後悔するよ。いない間の鶏の世話はするから」と妹に背中を押され、オーストラリアの養鶏農家を訪ねることに。約2週間滞在し、鶏の放牧飼育について学びました。



「現地では、土の状態が良いと鶏も健康になる、と教えられました。『土が良くなると生えている草の質も良くなり、その草を食べる鶏の腸内環境が整って、良質な卵を産む』という考えは、私にはない発想だったので新鮮でした」(桑原さん)

休耕地の草を鶏がせっせと食べる!

桑原さんが「放牧」をはじめたのは4年前から。家の近くの休耕地を借り、日中、鶏を放しています。


一面に雑草が生い茂っていた休耕地も、鶏たちによって地面がむき出しに!

「この辺りにある休耕地では、何も栽培していなくても、環境整備のため持ち主がきちんと草刈りをしているんです。でも、その草刈りがとても負担になっていると聞いて。そういった場所に鶏を放せば、どんどん草を食べてくれるから環境整備にもなるし、卵の質も格段に良くなる、と借りることにしました。まだ試行錯誤で反省ばかりですが、鶏がのびのび過ごしている風景を見て元気をもらっています」と桑原さん。



鶏の放牧は非常に珍しく、日本では情報が見つかりません。そのため、現在も飼育方法は英語で学び、必要な道具は海外(アメリカ)から取り寄せているのだそう。

「海外では『鶏を放牧する』ことが珍しくないので、いろいろな資材が売られています。鶏が逃げたり獣が入らないように張るネットも、鶏の放牧用に作られたものを輸入しました。いろいろなネットを試してみたんですけど、やっぱり専用に作られたものは使い勝手が良いんです」(桑原さん)



ちなみに、放牧されている鶏は卵をどこで産むのでしょうか。

「実は…きちんと小屋に入って産むんです!一羽がちょうど座れる大きさの箱をいくつか置くと、産みたくなった鶏が自分から箱に入ります。高い場所で産むのが好きな鶏もいれば、低い場所で産むのが好きな鶏もいて、おもしろいですよ」と桑原さん。

しかも、日が暮れ始めると、鶏たちは一斉に小屋に帰って眠るのだとか!何もしなくても、一羽残らず小屋に帰るのだそう。鶏、すごいです!

鶏が健やかに過ごせる環境づくりが何よりも大切!


優秀な草の“食べ手”になってくれるよう、ひよこの時期から青草を食べさせています。

鶏が健康で快適に過ごせるように心がけている桑原さん。

「鶏がストレスを感じると、わたしも体調を崩してしまうんです。もうちょっと割り切ればいいとは思うんですけど…。鶏が生きている間は辛い思いをさせないように、温度管理や環境調整に気を配っています」(桑原さん)


ぶくぶく農園では雄鶏も飼育しています。卵を産む雌鶏だけでなく、雄鶏も一緒に飼うことで、争いが減り、鶏同士が仲良く過ごせるそうですよ。

のびのびとした環境で飼育されているぶくぶく農園の鶏たち。小川町を訪れたら、放牧中の鶏が見られるかもしれませんよ~!


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ぶくぶく農園

桑原 花さん

1990年生まれ。3人姉妹の長女。5歳のときに一家で埼玉県比企郡小川町に移住、父の衛さんが野菜、米麦、養蜂、養鶏などを営む。大学卒業後、NPOジーエルエム・インスティチュートの農業開発援助アシスタント業務でフィリピン・ルソン島北部に1年半駐在。実家で約1年の研修後、2016年に就農。現在690羽の養鶏を営む。卵は、JA埼玉中央「小川農産物直売所」や「デリカテッセンアーチャン」「自然食の店リフレ」(いずれも小川町)、「とうふ工房わたなべ」(ときがわ町※毎週日曜日のみ)、江東区の八百屋「野菜のちから」、世田谷区下北沢のサンドイッチ店「サンドイッチクラブ」などで販売している。

ぶくぶく農園ホームページ:http://www.jca.apc.org/~stet/

ぶくぶく農園インスタグラム:https://www.instagram.com/bukubukufarm/?hl=ja

写真/菊地菫 取材協力/JA埼玉中央

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