2022.09.16

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【生産者インタビュー】いちじくは傷つきやすい乙女!?超繊細フルーツに魅せられたオヤジたちの40年物語

関東平野の中心に位置し、見渡す限りの平野が広がる埼玉県加須市。上品な甘さが魅力のいちじくは、そんな加須市の特産品です。40年前までは米農家ばかりだったというこの地で、いちじく栽培がスタートし、一大産地にまで成長した背景には、地元農家の深~い“いちじく愛”がありました。出荷がピークを迎える今、デリケートすぎる!? とウワサの生産現場を訪ねてきました。

【おうち時間で簡単スイーツ】皮むき不要!「ワイン風味の完熟いちじくコンポート」は汁までおいしいご馳走ぶり【農家に教わりました!】

埼玉県の北東部に位置し、群馬県、栃木県、茨城県に隣接する加須市。今でも稲作が盛んなこの地は、埼玉県有数のいちじく産地でもあります。

加須市の選果場を訪れると、朝早くからいちじくの出荷作業の真っ最中!


選果場とは、運ばれてきた野菜や果物を人や機械によって仕分けをし、箱詰めする場所。箱詰めされた農作物は、行き先ごとに分けられ、トラックで各地の市場に運ばれます。

いちじく農家の皆さんが各自収穫したいちじくをぞくぞくと運び込む中、慣れた手つきとスピードで箱の中身をチェックする2人の男性が。いちじく農家の若山和一さんと、坂本君夫さんです。


坂本さん(左)と若山さん(右)。細部まで見れるよう、照明を当ててチェックしています!

「出荷用に仕分けたいちじくが傷んでいないか、キズがないかなどひとつひとつ確認します。見逃さないようにチェックは2人体制がマストです」(若山さん)

出荷前のいちじくを見せてもらうと、わあ、大きくて立派なものばかり!



「加須のいちじくはおいしいですよ~! 8月から10月まで、旬の時期は毎日収穫し、サイズや色で規格ごとに仕分けて出荷します。埼玉県のいちじく出荷規格は、加須のいちじくを基準に作られたもの。わたしたちには県内のいちじくの栽培を牽引してきた誇りがあります!」(坂本さん)

加須の地にぴたりとハマった、いちじく!

加須市のいちじく栽培には、どのぐらいの歴史があるのでしょうか?

「実は歴史はそんなに長くなく、40年ほど。埼玉有数のいちじく産地ですが、もともとは米の代わりに栽培し始めたんです」(若山さん)



当時は減反政策の影響で、米に代わって別の作物を育て始めた時代。何を栽培したらいいか模索していく中で、加須の農家はいちじくに着目したそう。

「1980年代から、いちじく栽培が本格的に始まりました。気候や土地に合ったこともあり、いちじく農家が増えていったので、いちじく生産組合を作って産地としてやっていこうとなって。今では農家ごとに直売もしていて、いちじく販売の看板や旗があちこちにありますよ」(坂本さん)



若山家でも減反をきっかけにいちじくを育て始めたそう。

「父親から引き継いでいちじくを育てているんだけど、最初はわからないことだらけ。周りの農家に聞いたり、自分で試してみたりと苦労しました」(若山さん)



いちじく愛が深い若山さん。栽培方法だけでなく、栄養や歴史、レシピまで、いちじくについて様々な情報をチェックしています。

「いちじくの歴史はとっても長くてね。何百年どころか何千年もの歴史があるんですよ。小学生の見学も受け入れて、いちじくの魅力を若い世代にも伝えています。ただ、本当に繊細でデリケートなので、栽培は気が抜けません。まるで宝物のようにいちじくに接していますよ」(若山さん)

デリケートすぎる!?いちじくの栽培とは…

「よく子育てで“蝶よ花よと育てています”なんていうけど、いちじくはまさにそう。傷つきやすいから栽培から収穫まで、大切に慎重に育てています」(坂本さん)



いちじく畑には、収穫を待つプリップリに熟したいちじくがたくさん。それをひとつひとつ、手摘みで収穫します。

「収穫は全て手作業。摘み取ったら、タオルを敷いたカゴへ、優しく並べていきます」(若山さん)

かなり慎重、かつ大切にいちじくを扱う若山さん。



「完熟したいちじくは皮が薄く柔らかくて、とにかくデリケート。少しでも傷がついてしまったらそこから一気に傷んでしまうんです。収穫する際も、絶妙な力加減で摘み取る。そうじゃないと薄皮が破れてしまうから」(若山さん)

超繊細ないちじくは、実に葉が当たるだけでも傷になってしまう(!)ので、葉の位置に配慮して枝を伸ばし、必要に応じて葉を落とすことも。



「収穫時期の秋は、台風も来るからもう大変! 風や雨でいちじくに傷がついてしまったらと思うと、気が気じゃありません。枝を1本ずつ固定して、ネットをかけて。無傷のまま完熟させるための対策が欠かせず、いちじくファーストな毎日です(笑)」(若山さん)

いちじくの丁重な取り扱いは、収穫後も続きます。若山さんの後ろに見えるのは、業務用冷蔵庫!



「業務用冷蔵庫はいちじく農家の必需品です。常温で置くと水分が抜けて味が落ちてしまうので、収穫したらすぐに冷蔵庫へ。出荷前の仕分けも冷蔵庫から小出しして、なるべく冷えたまま、いちじくへの影響を最小限に抑えるよう作業します」(若山さん)

収穫から仕分けまで、ここまでする!? というくらいの丁重ぶり。プリップリな肉厚いちじくがわたしたちの手に届くまでに、こんなに手間と愛情がかかっていたんだ…と感動!



「いちじくにはこれだけ手をかけるほどの魅力があります。いちじく農家を始めてから旬の時期には毎日食べているけど、大きな病気を一度もしたことがない。これも栄養たっぷりないちじくのおかげですね」(坂本さん)

手はかかるけれどそれだけの価値がある。加須がいちじく産地になった背景には、農家の皆さんの深~いいちじく愛がありました!

求ム!いちじく農家になりたい人

愛情いっぱいに育てられた加須のいちじく。味はもちろん絶品です!

「最近では大手ショッピングモールでも販売されるなど、人気急上昇中。若い人にも食べてもらえてうれしいです」(若山さん)



これからますます忙しくなりそうですね!と声をかけると、意外な答えが返ってきました。

「おかげさまで全国の方にも親しまれるようになって、うれしい限りなんですが、引退する農家も増えてきて。いちじく農家が大勢いた20年前と比べると農家の数は半分に減っています」(若山さん)



一度植えたら20年から30年は収穫できるいちじく。まだまだ実る木がたくさん植わっていた畑も、農家の引退とともに更地になってしまうことも少なくありません。

「これからも加須のいちじくを栽培していくには、若い人の力が必要です。少しでも興味があれば、気軽に連絡してください」(坂本さん)

地域の名産にまでなった農産物の栽培を、ベテラン農家から学べるチャンスかも。気になった方は加須市騎西いちじく組合まで問い合わせてください。



生産者の思いが詰まった加須のいちじく。関東圏を中心にスーパーなどで販売されているので、見かけたらぜひ手に取ってくださいね♪

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加須市騎西いちじく組合

若山和一さん・坂本君夫さん

埼玉県加須市で、国産いちじくの主要品種「ド―フィン」を栽培。昭和60年設立の同組合では、19名の組合員が2.8ヘクタールで栽培し(2021年現在)、埼玉県内を中心に出荷している。市内の優れた生産品に与えられる「かぞブランド」としても認定されており、旬を迎える8~10月は1日につき1000~1500パック、ピーク時には3000パックを出荷。JAほくさい騎西直売所、県内スーパーマーケットで購入できるほか、生産農家でも販売および全国発送に対応している。

加須市騎西いちじく組合
住所:埼玉県加須市騎西35-1(JAほくさい騎西中央支店内)
電話:0480-73-1121
HP:https://jahokusai.jp/

取材写真/加藤優里 取材協力/JAほくさい

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